イベントレポート「地方自治体DX実践者の集い」
2021.05.27 | 活動レポート
5月19日に、地方自治体においてデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)を実践する職員、そしてこれから取り組む上での参考にしたいという職員の方々や自治体DXをサポートする方々がオンラインで集い、実践知を共有する「地方自治体実践者の集い」を開催しました。総務省の神門様の基調講演に加えて、東京都庁・大阪府豊中市・兵庫県豊岡市・北海道北見市の職員の方々からの事例紹介、そして自治体におけるDX人材育成などに関する意見交換が行われました。参加者からは「現場の生の声が聞ける機会は貴重」「現場の工夫を感じることが出来た」といった声も聞かれました。
イベント情報
開催日 2021年5月19日(水) 13:30-16:30 (オンライン開催)
参加者数(視聴者数)・Zoom参加者 約30人・YouTube Live視聴者数 約250人
対象
・地方自治体および省庁の行革部門、情報システム部門、人事部門、企画部門、デジタル政策部門などの職員など・地方自治体DXやシビックテックに関心のある民間企業の方など
内容
・基調講演「自治体DXの推進及び手順書の検討状況について」・データアカデミー/DXアカデミーを受講した自治体による事例紹介・着実に改革を進めている自治体の裏側について教えてもらおう!・職員同士の意見交換「総論ではなく、具体的な話で議論しよう!」など
イベント内容
本イベントは、総務省地域力創造グループ地域情報化企画室長神門様の基調講演「自治体DXの推進及び手順書の検討状況について」からスタートしました。基調講演では、自治体DX推進計画の背景や意義を国民目線でのメリットも交えて語っていただきました。また、(仮称)自治体DX推進手順書について、「小さな市町村でも内部で議論を進めていただくために参考になるものを考えています」「自治体DXに関して、システムやオンライン化については全国で標準的な進め方を手順書で提示しつつ、それ以外の部分については統一的というよりは、各地の職員同士が情報共有・情報交換を行いながら進めていく形になるのがよいだろうと思います」と現時点での見通しについて説明していただきました。(基調講演の動画は5月中のみ閲覧可能)
DX人材育成に関する各自治体の事例紹介
東京都庁デジタルサービス局の星埜さんが「都庁デジタルシフト推進リーダー養成研修について」と題して、東京都庁におけるDX人材育成の全体像と、DX推進の核となる人材に向けた研修についてお話しいただきました。受講者からのフィードバックとしては「デジタル活用の考え方が身についた」という好意的な意見がある一方、「検討結果を実践につなげるところに課題がある」といった現実的な声もあったそうです。それを踏まえて、今年度は所管課から課題を提案してもらい、事業化を目指したより実践的な形での研修を検討されているそうです。自治体DXでもっと重要だと認識されることの多い管理職研修についても、若手課長とベテラン課長に分けて、丁寧に向き合われている印象でした。
大阪府豊中市の宇佐美さんと大川さんは、2019年度に経済産業省が主催したDXワークショップにおいて取り組まれた、「窓口の混雑緩和に向けた、二次元バーコードを活用した住所変更届の受付」についてお話しいただきました。住所変更の届出内容を予め自宅などで登録しておき、入力情報を二次元バーコードの形で市民が保持しておくことで、窓口での待ち時間を短縮するという取り組みです。事後アンケートにもありましたが、試行錯誤の過程や、今後の改善のポイントをオープンに紹介していただくことはその他の自治体参加者にとって有益な発表だったようです。”まだうまくいっていない部分”を共有していただくことは、ともすれば「恥ずかしい」という感情に紐づいてしまいがちですが、豊中市さんのようなオープンな姿勢は他の職員を勇気づけてくれる内容だったように感じます。
兵庫県豊岡市の山内さんは、2021年1月から3月上旬という短期間で実施したBPRプロトタイピング研修の内容についてお話しいただきました。「有害鳥獣捕獲〜集計のフローを最適化する」「学校園の修繕報告の一元管理」「市民健診の日程変更受付業務の最適化」「公用車運転日報の電子化」という4つの具体的な業務をテーマとしてBPR研修を実施されたそうで、研修の内容もさることながら、その後に参加者の中で生じた行動の変化が印象的でした。。研修に参加した保健師さんが、新型コロナワクチン接種に関して情報部門に相談に来られた際に、業務フローを描きながら説明するようになったそうで、これが全庁的に広がっていくとすごいインパクトになりそうな予感です。最後の「業務改善のモチベーションは眠っている」という言葉は、他の参加者にとって一つのヒントになったのではないでしょうか。
DXとは地道で息の長い取り組みだと教えてくれた北見市
北海道北見市の及川さんと吉田さんからは、窓口サービス改善と業務効率化の取り組みを紹介いただきました。DXと聞くとどうしてもITツールの導入と考えてしまいがちですが、本来的な意味である「テクノロジーも使いながら仕事の手順や、やり方を変える」ために、役所全体に関係する地道で膨大な作業(プロジェクト管理、調整など)に取り組む覚悟が必要ですよとお話しいただいました。窓口改善に関わる問題点とその改善方法を、市民側と職員側の視点で非常にわかりやすく説明いただき、「RPAという解決策が向いている仕事にはRPAを使うべき」ということを再認識された方も多かったのではないでしょうか。
とは言え、先進的な北見市においても、様々な改善を導入する際は毎回否定的な意見が少なくないようですが、「実際にやってみて、ダメならやめてみる」という方針で進めていくことで、現場からも理解を得られるようになったそうです。また、何のためにやっているかを職員同士で共有するために、まずは自分たちで自分たちのサービスを利用してみたり、全市の事業計画として位置付けるなどして、推進体制を整えていかれたそうです。この取り組みはすでに10年近く継続されており、できることからやってこられた小さな改善が、大きなムーブメントとして形になっているのが今の北見市さんなのだと感じました。また、DX人材像について、及川さんは「様々な知見や調整能力に加えて、あきらめない心」が重要なのではないかとおっしゃっていました。
参加者の皆さんからの「事務局として、抵抗勢力とどう向き合っていかれましたか?」という生々しい質問に対しては、「外部から問題点を指摘するのではなく、その現場の困りごとをきちんと拾って議論すること」、「現場の業務内容を、事務局よりも詳しく知ろうとすること」が重要とのことでした。
人材育成・職員研修にもDXを!
意見交換のセッションでは、まずはじめに再度東京都の星埜さんよりインプットトークとして「東京都の人材育成のこれからを考える」というテーマでお話しいただきました。「コロナ禍により浮き彫りになった人材育成上の課題」や「都政の新たな組織ニーズに応じた人材育成」といった課題に対して、「職員が自ら考え、キャリアを切り拓いていくことが重要」というメッセージをいただきました。そのための手法としてLMS(Learning Management System)の導入を検討されているそうで、集合研修のオンライン化・オンデマンド化、自己啓発のコンテンツ化、マイクロラーニングなど、新しい学びの基盤として非常に先進的なコンセプトをご紹介いただきました。
東京都のタレントマネジメント(職員のスキルの可視化)や、外部人材の活用や求められる役割、ベテラン課長向けのワークショップ研修、職場における心理的安全性などについて、ざっくばらんな意見交換が行われました。特に、DXという変革のプロセスの中では、改革したい人とこれまでのやり方にこだわりを持つ方々のマウントの取り合いになってしまうことが多いですが、お互いの主張をきちんと議論し、最終的には利用者(市民)にとって一番良い方法を考えることがよいのではないかという意見が出ました。ブレイクアウトセッションでは、「DXの本質は、DigitalではなくTransformationにある」といった意見や、「各自治体が作成している研修コンテンツをシェアする仕組みを作ってはどうか」という意見も聞かれました。
イベントに参加いただいた方からの声
“他の自治体の皆さんが悩みを抱えながらも、できることを精一杯行っいる姿に共感しました。みんな頑張っているから負けてられないという思いが湧き、モチベーションが上がりました。”
“今後の業務に役立つ内容が豊富で、このような営業ベースではない機会に出会えてよかったです。”
“意見交換セッションは非常に勉強になり、質問しやすい雰囲気だったので次回も実施していただきたいと思います。”
関連情報
行政職員向けICT体験型セミナーについて
主に行政職員に対して「それほど大きな投資を必要とせずに導入ができるが、効果の高いICT」に実際に触れてみて学んでいただいたり、DXの実践者に直接意見交換できる機会を不定期で提供させていただいております。
自治体アプリマーケットについて
本イベントの登壇資料(提供可能な場合)のダウンロード、ならびに参加者間の交流と意見交換のために、自治体アプリマーケットDSS(Digital Service Square)のコミュニティ機能「DX知恵袋」を利用します。自治体職員の方に限定されますが、ぜひ会員登録をお願いいたします。